大判例

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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)50号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕借地上の建物の無断増改築禁止の特約は、借地人が既存建物をとりこわして全く新らしい建物を築造すること、その他これに準ずるような工事によつて建物の命数を不当に伸長し建物買取価値を不当に増大させるようなことを禁止する限度で、有効である。

〔争点〕普通建物の所有を目的とする本件土地賃貸借契約について、借主たる被告が建物を増改築または大修繕するときは貸主たる原告の承諾を受けること、被告が右に違反したときは原告は催告を要しないで契約を解除できる旨の特約が付されていた。被告は本件土地上に木造亜鉛葺平家建倉庫兼居宅建坪二〇坪の建物を所有していたが、昭和三四年九月頃原告にその増改築の承諾を求めたところ、原告が賃貸借の残存期間が七年九ケ月にすぎないからといつて拒絶したはかかわらず、これを無視して増改築工事をしてしまつた。その規模は、当時本件建物はすでに三度にわたつて増築が行われ、三棟合計三〇坪程度の建物になつていたが、右増築部分は全部、工場の部分も柱の一部を残して全部とりこわし、新たに基礎コンクリートを打ち、床に三寸程度のコンクリートを流し、全部こわした部分は通し柱を建て、柱を残したところはその外側に接して長柱を建ててボルトでしめ、結局三七坪五合の総二階の建物とし、階下は工場、二階は作業場と工員宿舎にしたもので、その費用は一二〇万円ないし一三〇万円かかつた。そこで原告は、前記特約違反を理由に本件賃貸借契約を解除して、本件建物収去土地明渡を求めたが、被告は右特約を借地法一一条に反する無効なものであると争つた。

判決は、次のように説いて、右特約の効力を制限的に肯認している。

〔判決理由〕確かに、約定をもつて無断増改築を禁じ、これに違反した場合賃貸借契約を解除することができるとすれば、借地上の建物は現状有姿のままに制限されて、借地人は建物の使用態様を変更することができなくなり、右特約違反を理由とする契約解除の場合には建物の買取を請求することもできないと解せられるから、借地人の建物買取請求権の行使は事実上制限されることになる。また右特約により文字どおり一切の増改築を禁止することができるとすれば、借地人は建物の維持保存のために必要な増改築をすることもできない結果、建物の朽廃時期を早め、ひいては更新請求権の行使も事実上制限されることになる。このような点を考慮し、いわゆる無断増改築禁止の特約は無効であるとする考え方もないわけではない。しかしながら、存続期間を定めない場合、借地権は建物の朽廃により消滅するものであり、存続期間を定めた場合でもその更新後は同様である。そして木造建物はたとえ適当な修理をし、部分的な増改築を行つても、やがては朽廃に至るものであり、土地所有者はこの時期に土地の利用権を回復するものであつて、土地所有者のこの利益もまた保護されなければならない。したがつて土地所有者は借地人が既存建物を取毀して全然新しい建物を築造する場合、その他これに準ずるように工事によつて建物の命数を不当に伸長し、建物買取価格を不当に増大させるようなことは、借地人との特約により有効に禁止することができるものといわなければならない。以上のとおりであるから原被告間の前記特約は少くとも右の限度で有効である。そこで被告の前記増改築が、右特約による禁止に触れるものであるかどうかについて考えるに、……右工事は既存建物を取毀して全然新しい建物を築造したものとはいえないとしても、小くともこれに準ずるような工事であつて、これにより建物の命数は著しく伸長され、建物の価格は著しく増大したものといわなければならない。そうだとすれば被告の右増改築工事は前記特約に違反するものである。(中島一郎)

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